建設業許可は、2種類の一式工事業と27種類の専門工事業の計29業種に分類されています。
この記事では、29業種のなかの「土木工事業」という業種について解説します。
目次
土木工事業とは
土木工事業は、500万円以上の「土木一式工事」を請負うのに必要となる許可業種で、2種類の一式工事業のうちの1つです。
なお、元請業者として土木一式工事を請負い、下請業者に合計4,000万円以上発注する場合は、土木工事業の特定建設業許可が必要となりますので注意しましょう。
土木一式工事の内容
土木一式工事とは、総合的な企画、指導、調整のもとに土木工作物を建設、補修、改造、解体する工事のことをいいます。
元請業者の立場で、下請業者を管理して施工する大規模で複雑な工事というイメージです。
土木工事業のよくある誤解
土木工事業の建設業許可を受けていれば、「舗装工事」などの専門工事も金額制限なく請負えるという誤解が非常に多いのですが、土木工事業の建設業許可をもって金額制限なく請負えるのはあくまで「土木一式工事」のみです。
上記の工事名称例のような工事のなかに舗装工事が内訳として含まれている場合は、土木一式工事の付帯工事として舗装工事の施工が可能ですが、舗装工事のみを請負う場合で、その金額が500万円を超えるケースでは、舗装工事業の建設業許可を受ける必要があるので注意しましょう。
「舗装工事」を例に挙げましたが、とび土工コンクリート工事、水道施設工事などその他の専門工事についても同様です。
土木工事業の専任技術者要件
建設業許可を受けるには、業種ごとに一定以上の資格または実務経験を有する人を営業所に配置しなければなりません。
専任技術者になれる資格
- 一級建設機械施工技士
- 二級建設機械施工技士
- 一級土木施工管理技士
- 二級土木施工管理技士
- 技術士 ★1
- 監理技術者資格者 ★2
★1 技術士の場合、「建設」「農業」「水産」「森林」のいずれかの部門に限ります。
★2 監理技術者資格者証の「土木工事業」に数字が記載されている必要があります。
特定建設業許可の場合は、上記資格のうち、一級資格者、技術士、監理技術者資格者だけが専任技術者になることができます。
実務経験により専任技術者になる場合
上記のような資格がなくても、土木一式工事の施工について10年以上の実務経験を有する人は、土木工事業の専任技術者になることができます。
また、土木工事業に係る指定学科の高校を卒業している場合は卒業後5年、大学を卒業している場合は卒業後3年の実務経験を有していれば専任技術者になることができます。
土木工事業に係る指定学科
- 土木工学 ★1
★1 ※農業土木、鉱山土木、森林土木、砂防、治山、緑地、造園に関する学科を含みます。
上記の学科の高校または大学を卒業している場合は、必要な実務経験期間の短縮が認められます。
土木工学に関する具体的な学科、類似学科には、次のようなものがあります。
類似学科については、学科名の末尾の「科」「学科」「工学科」は、他のいずれにも置き換えが可能です。ただし、青色表記の「森林工学科」「農林工学科」「農業工学科」「林業工学科」については、置き換えることができません。
上記の類似学科名に記載がない学科でも、履修内容が上記のような土木に関するものであると認められる場合は、個別相談により指定学科とみなしてもらえるケースもあります。この場合は、卒業証明書とあわせて履修証明書や成績証明書など取り寄せ、どのような内容の学習をしたかを提示して事前に審査庁に相談しましょう。
土木一式工事の実務経験証明方法
土木工事業の専任技術者の要件を実務経験により満たすためには、経験を有することはもちろんですが、その経験を書類で証明できるかどうかが重要なので、建設業許可申請において必要な書類について解説します。
土木一式の実務経験を証明するうえで最初に確認するべきことは、経験を積んだ企業が、在籍時に土木工事業の建設業許可を受けていたかどうかであり、各ケースの必要書類は次のとおりです。
許可あり企業での経験の場合
- 被保険者記録照会回答票
- 建設業許可通知書の写し
- 専任技術者証明書
- 実務経験証明書
- 指定学科の卒業証明書
- 健康保険被保険者証の写し
許可なし企業での経験の場合
- 被保険者記録照会回答票
- 工事請負契約書等
- 専任技術者証明書
- 実務経験証明書
- 指定学科の卒業証明書
- 健康保険被保険者証の写し
被保険者記録照会回答票とは
この書類は、いわゆる専任技術者になろうとする人のこれまでの年金記録です。
年金事務所に行くと即日発行してもらえる書類で、どの企業の厚生年金保険にいつからいつまで加入していたかを確認できます。
この書類により、まずは土木一式工事を経験した企業に常勤で在席していたことを証明します。
※審査庁によっては取締役として登記されていれば厚生年金保険に加入していなくても過去の常勤を認めるというルールを設けている場合がありますので、実務経験証明証明の準備着手時に申請先の自治体に確認すると良いでしょう。
建設業許可通知書の写しとは
建設業許可新規取得時、5年に一度の更新時にすべての会社・個人に発行される書類です。
A4一枚の普通紙で発行されますが、とても重要な書類で、建設業許可の業種や有効期限が記載されています。
建設業許可通知書に土木工事業と記載があり、その有効期間中、被保険者記録照会回答票によってその企業に在籍していたことを証明できれば、その期間における土木一式工事の実務経験が認められることが多いです。
ただし、通知書に記載されている許可の有効期間の満了時に更新手続きをせず、許可が抹消されている企業については、抹消の日までの経験を認めてくれる行政庁と認めてくれない行政庁に分かれるので、必ず事前に確認しましょう。
※建設業許可申請の実務においては、許可の通知書がなくても、行政側が行政内での確認により許可の有無を確かめてくれる場合が多いので、許可の通知書が手に入らない場合は、申請先の窓口に問い合わせしましょう。
工事請負契約書等とは
土木工事業の建設業許可を受けていない企業でも、500万円以下の軽微な土木一式工事を請負い、施工することができます。
このような、土木工事業の建設業許可を受けていない企業における経験も専任技術者の実務経験年数に含めることができるのですが、この場合、土木一式工事を請負っていたことを証明するため、工事請負契約書等を証明する期間通年分用意する必要があります。
工事請負契約書ではなく、注文書、請書、請求書(通帳で入金確認)等でも認められるケースもありますが、土木一式工事は元請業者の立場での経験を求められる業種なので、請負契約書での証明が一番良いでしょう。
専任技術者証明書とは
建設業許可申請書類のなかに、様式八号の専任技術者証明書という書式があります。
ここには、専任技術者の氏名、住所、生年月日等の個人情報の他、専任技術者が担当する業種ごとの資格の種類または実務経験など、どのように要件を満たしているのかを、記号により記載することになっています。
実務経験証明書とは
続いて、様式第九号の実務経験証明書という書式があります。
この書類は、専任技術者の要件を実務経験で満たす場合にのみ必要となる書類で、土木施工管理技士等の資格により要件を満たす場合は不要となります。
実際に担当した土木一式工事について具体的に記載し、その経験年月が必要な期間を満たすように記載しましょう。
前記の被保険者記録照会回答票における厚生年金加入の期間、土木工事業の建設業許可が有効であった期間、または工事請負契約等が用意できる期間と同期間の経験を記載する必要があります。
指定学科の卒業証明書とは
前記の土木工学に関する学歴により実務経験証明年数を短縮する場合、学校から卒業証明書を取り寄せて、基本的には原本を提出することになっています。
卒業証明書の取り寄せ方法は、学校ごとに案内があるはずなので、卒業した学校に確認してみましょう。
健康保険被保険者証の写しとは
専任技術者が、建設業許可を申請する企業に現在常勤であることを健康保険証の写しを提出することにより証明します。
後期高齢者である場合や、健康保険組合のカードデザインの都合上、健康保険証に申請する企業名が記載されていない場合は、健康保険証の写しとあわせて、次のいずれかの書類等により常勤を証明する必要があります。
- 健康保険・厚生年金保険の標準報酬決定通知書
- 住民税特別徴収税額決定通知書
- 法人の場合は直近の法人税確定申告書における役員報酬明細
- 個人事業の場合は直近の確定申告書
- 被保険者記録照会回答票
- 健康保険組合発行の資格証明書
※上記一覧は申請先ごとの審査基準により異なる可能性があります。
※神奈川県等、一部の審査庁では専任技術者が代表取締役である場合には健康保険証の写しを求めないという取り扱いもあります。
土木工事業まとめ
土木工事業は、土木一式という大きな規模の工事を、金額制限を気にすることなく請負えるようになる魅力的な業種です。(特定建設業許可の場合は下請業者への発注金額に注意)
また、公共工事入札においては、土木一式工事はもちろんですが、舗装工事などの専門工事に該当する工事についても、「土木工事業の許可を受けていることを入札参加の条件とする」とされているケースも多いのが特徴です。
この記事では土木工事業にフォーカスして解説しましたが、建設業許可はその他の要件も含めて非常に複雑で厳しいルールが多く定められています。
「許可取得までに時間がかかってしまった」「許可を取得することができなかった」ということが起きる前に、本気で建設業許可を取得したいという人は、建設業専門の行政書士による無料相談を受けてみてはいかがでしょうか。